ダニエル・ギブソン

ダニエル・ギブソン: DNAを人工的に作りインターネットで送る方法

生物学者のダニエル・ギブソンはDNAを編集し、さらにはプログラマーがコンピューターのプログラムを書くようにDNAのプログラミングをしますが、ここでの「プログラム」は、生命を作り出し、デジタル化された情報からタンパク質やワクチンといった生物学的物質を作る力を科学者に与えるものです。彼が現在進めている次なるプロジェクトは「生物学的瞬間移動」で、これは新薬をインターネットに乗せて世界中に瞬間的に届けられるようにしようというものです。この技術によっていかに突発する疫病への対応が変わり、個人に合った処方薬を家庭でダウンロードできるようになるかを学びましょう。

Translated by Tomoyuki Suzuki
Reviewed by Yasushi Aoki

さて 皆さんに 人工細胞を作り 生命をプリントすることについて お話しします でも その前に ちょっとエピソードを 2013年3月31日のこと 私たちの研究チームは 国際的な保健機関から 一通のメールを受け取りました 中国で2人の男性が H7N9型鳥インフルエンザに感染し 間もなく死亡したという知らせです 世界的な流行の おそれがありました ウィルスは中国全土に 急速に広がり始めていたからです インフルエンザのワクチンを製造し 流行を抑える手段はありましたが ワクチンが整うには少なくとも 6か月はかかることでしょう 70年以上前に開発された 時間のかかる時代遅れのやり方が ワクチンを製造する 唯一の方法だったからです

ウィルスを感染した患者から分離し 梱包し 施設へと送り届け そこで科学者たちが ウィルスを鶏卵に注入し 数週間かけて鶏卵の中で ウィルスを培養し そうやって何段階ものステップと 何か月もの時間がかかる インフルエンザ・ワクチン製造過程が 始まるのです 私たちが メールを受け取ったのは 生物学的なプリンターを ちょうど発明したところだったからです これはネットからダウンロードした 製造指示書から すぐにワクチンを プリントすることができます インフルエンザ・ワクチンの 製造過程を劇的に速め 多くの人々の命を救う可能性を 秘めています

生物学的プリンターは DNAを解読し作製する能力を高め 我々が「生物学的瞬間移動」と 呼んでいることも 視野に入ってきます 私は生物学者兼技術者で DNAから様々な物質を作り出しています 信じてもらえないかもしれませんが 私のお気に入りの作業は DNAを切断し 再び結合させて DNAの仕組みを理解することです DNAは コンピューターのコードのように 編集やプログラミングができますが 私が作るアプリは独特で 生命を作り出すんです 自己複製する生きた細胞や ワクチンや治療薬のようなもので 以前には作れなかったような 働きがあります

ここに写っているのは アメリカ国家科学賞 受賞者クレイグ・ヴェンターと ノーベル賞受賞者の ハミルトン・スミスです 彼らは共通のビジョンを持っています それは ウィルスや生細胞など あらゆる生物的存在の機能や特徴は DNAにプログラムされているのだから そのコードを読み書きできれば 遠く離れた場所でも 再構成出来るはずということです これが「生物学的瞬間的移動」の 意味することです このビジョンの正しさを証明するため クレイグとハミルトンは初の試みとして コンピューター上にあるDNAのコードから 人工細胞を作るという 目標を定めました 最先端技術の研究の仕事を 探している一科学者として こんなに そそられるものは ありません

(笑)

さて ゲノムとは生物内部にある DNAの全体を意味しています 2003年に完了したヒトゲノム計画は 人類の完全な遺伝子情報を 明らかにするという 国際的な試みでしたが これに続くようにして ゲノミクス(遺伝子学)に 革命が起こりました 科学者はDNAを読み取る技術に 熟達していきました 生物の持つ A、C、T、Gの塩基配列を 決定するためです 一方 私の研究は かなり異なっていて DNAを作製する技術に 熟達する必要がありました 作家のように DNAの短い文を 書くことから始め それから段落を書き ついにはDNAでできた 小説全体を書き上げ タンパク質や生細胞を作る 生物学的な指示書を作成するのです 生細胞というのは新製品を作り出す上で 自然界に存在する最も効率的な機械で その生産高は 医薬品市場全体の25%に相当し 数十億ドル規模にもなります

細胞をコンピューターのように プログラムできるようになれば DNA作製は生物経済を さらに発展させ 生物学的瞬間移動も可能になると 分かっていました DNAが記述する 生物物質を DNAを元にプリントする ということです この夢を実現する 最初のステップとして 私たちの研究チームは 世界で初めて コンピューター上のDNA情報から 人工的なバクテリア細胞を作り出そうと 取り組み始めました 人工DNAは市販商品です 短いDNA断片の製造を 請け負う会社がいくつもあり DNAを構成する化学物質である G、A、T、Cの入った この4本の瓶から始めて 短いDNA断片を作ってくれます

これまでの15年間ほど 私たちのチームは 短いDNA断片を繋ぎ合わせて バクテリアの完全なゲノムを作る 技術を開発してきました 最も長いゲノムは 百万文字以上の長さになりました これは平均的な小説の 2倍の長さに相当しますが これをただの一文字のミスもなく 作り上げる必要がありました これをただの一文字のミスもなく 作り上げる必要がありました これはある手法を開発することで 可能になり 私はそれを「単一工程生体外等温再構成法」 と名付けようとしましたが—

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驚いたことに 科学界は 技術的に正確なこの名前がお気に召さず 「ギブソン・アセンブリ」と命名しました これは 今では標準的な手法となっていて 世界中の研究室で 長短さまざまなDNAを作製するのに 使われています

(拍手)

バクテリアのゲノムを 化学的に合成できるようになったら 次の課題は これを元に 自己複製を行うことができる 生命を宿した細胞を作ることです 我々のアプローチは ゲノムは 細胞のOS(基本ソフト)であり 細胞はゲノムの起動に必要な ハードウェアとみなすというものです 様々な試行錯誤を繰り返し 細胞を再プログラムし さらには 細胞のゲノムを 別の細胞のゲノムで置換することで バクテリアを別の種に変えてしまう 方法も開発しました このゲノム移植技術によって 母なる自然ではなく 科学者が作製したゲノムを 起動させる道が開けました 2010年には DNAを読み取り 作製するために 開発した技術を総動員して 史上初の人工細胞を 作り出したことを発表し 史上初の人工細胞を 作り出したことを発表し 今回は「シンシア」(Synthia)と 命名しました

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バクテリアのゲノムの塩基配列が 1995年に初めて決定されて以来 何千ものバクテリアの 全塩基配列が決定され コンピューター上のデータベースに 保存されてきました 人工細胞に関する我々の研究は この逆の手順が 可能であることを 証明するものでした コンピューターから取り出した バクテリアの完全な塩基配列を 期待される特徴をすべて備える 生きた自己複製する細胞へと 変換することが できたのです

このようなレベルの 遺伝子操作をすることについて 安全性の懸念があるのは 理解できます この技術は 社会にとても役立つ可能性を 秘めている一方 害をもたらす可能性もあります このことに留意し 最初の実験を始める前から 私たちは 一般の人々や政府と共に この新しい技術を 責任をもって開発し 規制するための 方法を探り始めました そのような議論から得られた 結論の一つは DNA合成のすべての発注者と 発注内容を精査し 病原菌や毒物を 悪者が作ったり 科学者が偶然作ってしまうことが ないようにするということです 疑わしき注文はすべて FBIや その他の関連する法執行機関に 報告されます

人工細胞技術は 次の産業革命の原動力になり 世界的なサステナビリティの 問題解決に貢献するような形で 産業界や経済界に 変革をもたらすことでしょう 可能性は無限大です 例えば 再生可能な 生物的資源から作られた衣服 合成微生物が生み出す バイオ燃料で走る車 生分解性ポリマーから作られた プラスチック 患者に合わせた特製の治療薬を ベッド脇でプリントすることなどが考えられます 人工細胞を作り出すための 大いなる努力によって 我々はDNA作製の 最先端に立ちました この過程で DNAをより速く より正確に より高い信頼性で 作成する方法を 見いだしてきました

これらの技術のロバスト性により 作成手順を自動化して 科学者が実験室で 手作業を行っていたことを 機械で行えることに 気付きました 2013年に 初のDNAプリンターが 完成しました BioXpといいます 私達や世界中の研究者が 取り組んでいる 数々の応用において この装置はDNA作製のため 不可欠なものとなっています

BioXpが完成して直ぐ後に 中国で発生したH7N9型鳥インフルエンザの 脅威に関するメールを受信しました 中国の科学者チームは 既にウィルスを分離し DNAの塩基配列を解明して ネット上にアップしていました 我々は米国政府の要請を受けて DNA塩基配列をダウンロードし 12時間も経たないうちに BioXpでこれをプリントしました 製薬会社ノバルティスの 協力者たちは 直ちに この人工DNAを インフルエンザワクチンへと変えていきました その間 アメリカ疾病管理予防センターは 1940年代以来のやり方によって 中国からウィルスの サンプルが届くのを待ち 鶏卵を使った手法を 開始する準備を整えていました 我々は史上初めて 新型の 危険性が高いウィルス株のワクチンを 流行する前に 製造することができ 米国政府は備蓄用に これを注文しました

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私は この時になって初めて 生物学的瞬間移動の威力を 本当に理解するに至りました

生物学的瞬間移動の威力を 本当に理解するに至りました

このこともあって 我々は自然な成り行きとして 生物学的瞬間移動装置の 製作を始めました この装置をDBCと呼んでいます デジタル-バイオ・コンバーターの略です 予め作られた DNAの短い断片を元にする BioXpとは異なり DBCはデジタル化された DNAから始め それを生物的な実体 ― DNA、RNA、タンパク質さらには ウィルスといったものに変換します BioXpは 物理的なDVDを 入れる必要がある DVDプレイヤーであるのに対し DBCはNetflixだと 考えるといいでしょう DBCを作るために 科学者のチームが ソフトウェアエンジニアや 計装エンジニアと共同して 実験室における 複数の作業工程の全てを 1つの装置にまとめました これに含まれるものには 作製されるDNAを予測するソフトウェア DNAの基本単位であるG、A、T、Cを 短いDNA断片にする化学 短い断片をより長いものに繋げる ギブソン・アセンブリ それに DNAをタンパク質といった 生物学的実体に変換する 生物学があります

これが試作機です 見た目はともかく うまく機能します 治療薬やワクチンを作れました 実験室では数週間から 数か月掛かっていた作業工程が わずか 1日か2日で できるようになりました まったく人間の手を 介さずに機能し 世界のどこかから送られてきた メールによって 起動することができます 私達はよくDBCを ファックスにたとえています ファックスで受け取るのは 画像や文書ですが DBCで受け取るのは 生物学的な物質です ファックスの進化の歴史を 振り返ってみると 1840年代に作られた試作機は ファックスに見えないくらい 現在のものと大きく異なっていました 1980年代においてすら たいていの人は ファックスを知りませんでしたが 知っていたとしても 画像を地球の反対側で 即座に再生するという概念は 理解するのが困難でした 現在ではファックスの全ての機能は スマホに組み込まれていて 誰もがこのデジタル情報の高速なやり取りを 当たり前のものと考えています

現在のDBCはこんな感じです DBCはファックスのように 進化することでしょう 私たちは装置の小型化や 基盤をなす技術の信頼性向上 低価格化、高速化や 正確さの向上に取り組んでいます 正確さは人工DNAの製作において 極めて重要です DNAの1文字の間違いで 薬の効能が無くなったり 人工細胞の死に 繋がりうるからです

DBCは DNAから作られる薬品の 分散製造に役立ちます 世界中の病院がDBCを使って 患者に合わせた特製の薬を ベッド脇でプリントできることでしょう それどころか 人々がDBCを 自宅用パソコンやスマホと繋げて インスリンや抗体療法の処方箋を ダウンロードするのが 当たり前になる日が来るとさえ 思っています 疫病の突然発生に迅速に対応するため 戦略的な場所に DBCを設置することも 有効でしょう 例えばジョージア州のアトランタにある 疾病予防管理センターから インフルエンザ・ワクチンの処方箋を 地球の反対側にあるDBCに送り 疫病発生の最前線で ワクチンを製造することが可能です インフルエンザ・ワクチンは その地域特有のウィルス株に合わせて 製造することも可能です ワクチンを貯蔵しておいて 配送するのではなく デジタルファイルとして 様々な場所に送ることで 多くの命が救われることでしょう

もちろん 応用は考えられる限り 何でもあり得ます DBCを他の惑星に設置することだって 想像するに難くありません 地球にいる科学者が 異星のDBCにデジタル処方箋を送り 新薬を作ったり 酸素、食料、燃料、建築資材を生成する 人工生命体を作ったりして 人類がもっと住みやすい惑星に 作り変える手段にできます

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デジタル情報は 光速で伝わるので 処方箋を地球から火星に 伝達するのに掛かる時間は わずか数分ですが 同じサンプルを宇宙船に乗せて 物理的に届けようとしたら 何か月も掛かるでしょう しかし今のところは新薬を 完全自動化、オンデマンドで 世界中に瞬間的に届けることで 勃発する伝染病から命を救い 個人向けに合成された抗がん剤を 一刻を争う患者さんのために プリント出来れば 満足です

ありがとうございました

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